資料説明の場面では、大きく二つのタイプの人がいます。
ひとつは、あらかじめ資料に話す内容を書き込み、そのメモを頼りに説明する人。
もうひとつは、資料にはほとんど何も書かず、頭の中で整理した内容を言葉で伝えられる人です。
どちらが良い悪いという単純な話ではなく、そこには「準備の仕方」と「理解の深さ」に大きな違いがあります。
まず、資料に読み上げる内容を書き込む人は、説明の流れを事前に細かくシミュレーションしています。
言い回しや強調点、次に話す順番まで決めておくことで、緊張しても安心して話せるのが利点です。特に説明に慣れていない人や、正確な表現が求められる場面では効果的です。
しかし一方で、資料に頼りすぎると「読む」ことが目的になってしまい、聞き手との目線が合わず、単調に感じられることがあります。
また、質問や予期せぬ話題の展開に柔軟に対応しづらくなることも課題です。
これに対して、資料に何も書き込まず説明できる人は、内容を自分の言葉で理解し、全体の構成を頭の中で組み立てています。
つまり「覚える」のではなく「理解している」状態です。
そのため、相手の反応を見ながら話す順番や言葉を調整でき、自然なコミュニケーションが生まれます。
聞き手に合わせた説明や、突発的な質問への対応もスムーズです。
こうした人は、資料を「読むもの」ではなく「使うもの」として位置づけています。
両者の違いは、情報を「再現」しているか、「再構築」しているかの違いと言えます。
前者は台本を再現するように話し、後者は自分の理解に基づいてその場で再構築しながら話す。
後者の説明は一見即興のようですが、実はその裏に深い理解と多くの準備があります。
資料を何度も読み込み、要点を整理し、質問を想定する。つまり「書き込まずに話せる人」は、単に慣れているのではなく、準備の質が高いのです。
また、資料に書き込むタイプの人も、段階を踏めば次のステップに進むことができます。
最初は書き込みを使って安心して話す。
その後、要点だけをメモするように変え、最終的にはメモがなくても自然に話せるようになる。
つまり、書き込みは「補助輪」のようなもので、慣れていくにつれて手放していけるものです。
説明力とは、暗記ではなく「理解の深さ×伝える力」です。
どれだけ準備をしても、自分の言葉で説明できなければ、聞き手には響きません。
逆に、完璧でない言葉でも、要点を自分の理解で伝えられれば、説得力のある説明になります。
資料に書き込むか否かは手段の違いであり、最終的な目的は「聞き手に正確に、そして分かりやすく伝えること」です。
つまり、何も書き込まずに話せる人は、内容を「自分の中で再構築する力」を持っています。
そしてそれは、一朝一夕で身につくものではありません。
繰り返し説明を行い、相手の反応を見て修正を重ねることで、徐々に「理解して伝える力」が磨かれていくのです。
資料説明の上達とは、紙の上ではなく、自分の中にある理解をどう相手に橋渡しできるか。
その力を育てる過程こそが、説明力の真価と言えるでしょう。

